生まれてきてよかったなーと思ったことは、私は今まで一度もなかった。
まあ、そこまで、大げさに言いきらなくてもいいのだが、あまり、「生まれてきてよかった」とひしひしと思うことがなかった。
鈍感なのか、感謝がたりないのか、いろいろあるのかもしれないけれども。
ポルトガルから日本に戻る、数日前6月の初め、ずっと行ってみたかった、ポルトワインのふるさと、アルトドウロに行ってきた。
ポルトから、川をずーーーーと上へ上へ上っていくと、ポルトワインのできる、
ブドウが作られている段々畑が見えてくる。
それが、右を見ても左を見てもずーーーと続くのである。
ポルトからレグアまで電車で2時間。電車の車窓から、ずーーーとブドウの段々畑がみえるのである。
私は、生まれて初めて、生まれてきてよかったなーと涙した。
青々した、ブドウ畑。6月のキラキラした光を浴びた川。空。
ただただ、永遠のようにそれだけが続いていく。
「生まれてきてよかった」
とても強い感情だった。
どこからともなく湧き上がり、光に包まれていた。
鳥が一羽ゆっくりと空をとんでいく。
目を閉じても、今このときでも私は何度でも思えるだろう。
生まれてきてよかったと。